THE GORGON CULT / STORMLORD (04年/日本盤)

イタリア出身のシンフォニック・ブラックメタルバンドの3作目。
同人誌の執筆中に何気なくYOUTUBEから流してみた所、#2のカッコ良さに思わず原稿から
顔を上げてしまい、その日の内にAMAZONに注文してしまった経緯がありますwww
個人的には#2・5・8がお気に入り(^^)
このバンド、ヴォーカルのイカレ具合が半端じゃないです。
本当に気が触れちゃってるんじゃないか?というほど、強烈なスクリームを聞かせます☆
煌びやかなキーボードや16ビートによるバスドラムの連打を多用した、メロディアスで
スピーディーな目立ち、聴いていてダレませんでした。
派手なギターソロなどはなく、良く練られた曲の構築で聴かせるスタイルかと思います。
そういえば、今年に入って買ったメタルのアルバムはこれが最初でしたwww
ブラックメタル系のアルバムを買ったのは、このバンドで6組目だと思います。
この方面はまだまだ聴き尽くしていないので、これからもこういった素晴らしいイカれた
バンドを(笑)どんどん見つけていきたいものです(^^)
SKYDANCER / DARK TRANQIOLLITY (93年/日本盤)

久々のCDレビューでございます☆
今や北欧メロデスの重鎮である彼等の記念すべきデビュー作。
ヴォーカルは現IN FLAMESのアンダースが担当しており……出だしから早速強烈(笑)な
シャウトをかましておりますwww
ジャケットもデスメタル系にあるまじき、幻想的で美しいアートワーク。
それに負けず、楽曲の方も非常にメロディアスで幻想的。
個人的には物憂げな#3や#6がお気に入りで、物作りの方面でもインスピレーションを
与えてくれる事があります。
難点を挙げてしまうと、やはり時代も90年代前半と言う事もあってか音質がいまいち。
ドラムのパコパコという軽い音が何とも……良くも悪くも時代を感じますwww
ないとふぉぉぉぉぉぉるっ!!!
コミティア100、受かっちゃったぉ。
小説の後書きでも書いてある事だから、ご存知の方もいらっしゃると思いますが……。
先日送られた来た書類によると、私・浅倉のスペースは、
せ33b……だそうです。
まさか受かっちまうとは……なら、何のために応募したんだよって話ですねwww
とりあえず、きちんとした告知もせねばと思い、お知らせをさせていただきます。
現在、原稿真っ最中でございます。
原稿用紙に下書きを描き始めたのが、実は昨日の14日夕方です。
まー、小説にかまけた挙句が残り3週間でのスタート……自業自得ですな。
「少年漫画と少女漫画をごっちゃにした様な感じのカオティック・ギャグ漫画」
当日のカタログを開くと、こんな謳い文句を掲げたサークルカットがあると思います。
それがうちのサークルでございます。
謳い文句の通り、少年漫画と少女漫画をごっちゃにした感じです。
話自体はベタなギャグですが、今回は話より私・浅倉の絵的な個性を出来る限り前に
出してみよう、という創り手として実験的なコンセプトです。
最初は少女漫画的な華やかな雰囲気な雰囲気なのですが、段々と少年漫画的な雰囲気に
なだれ込み、最後はグッチャグチャになってハッピーエンド……わけ分かりませんね。
「お前の絵って極端だよな」
「最初と最後で雰囲気が違いすぎる」
読んだ人は大体、こんな感じのコメントを残す事でしょう……それが望みさwww
音楽で言うと、メタルコアやメロディック・デスメタルの様なクロスオーヴァー的な
感じになると思います……極端な美と醜を使い分け、一つの世界を生み出すみたいな。
2012年5月5日 東京ビッグサイト せ33b
当日、お暇な方はよろしければお越し下さい(^^)
先日送られた来た書類によると、私・浅倉のスペースは、
せ33b……だそうです。
まさか受かっちまうとは……なら、何のために応募したんだよって話ですねwww
とりあえず、きちんとした告知もせねばと思い、お知らせをさせていただきます。
現在、原稿真っ最中でございます。
原稿用紙に下書きを描き始めたのが、実は昨日の14日夕方です。
まー、小説にかまけた挙句が残り3週間でのスタート……自業自得ですな。
「少年漫画と少女漫画をごっちゃにした様な感じのカオティック・ギャグ漫画」
当日のカタログを開くと、こんな謳い文句を掲げたサークルカットがあると思います。
それがうちのサークルでございます。
謳い文句の通り、少年漫画と少女漫画をごっちゃにした感じです。
話自体はベタなギャグですが、今回は話より私・浅倉の絵的な個性を出来る限り前に
出してみよう、という創り手として実験的なコンセプトです。
最初は少女漫画的な華やかな雰囲気な雰囲気なのですが、段々と少年漫画的な雰囲気に
なだれ込み、最後はグッチャグチャになってハッピーエンド……わけ分かりませんね。
「お前の絵って極端だよな」
「最初と最後で雰囲気が違いすぎる」
読んだ人は大体、こんな感じのコメントを残す事でしょう……それが望みさwww
音楽で言うと、メタルコアやメロディック・デスメタルの様なクロスオーヴァー的な
感じになると思います……極端な美と醜を使い分け、一つの世界を生み出すみたいな。
2012年5月5日 東京ビッグサイト せ33b
当日、お暇な方はよろしければお越し下さい(^^)
嫌われデッキ。
こんばんは、浅倉です。
今日は仲間内から最も嫌われているデッキを紹介します。
<エンチャント>
謙虚 4
忘却の輪 4
<インスタント・ソーサリー>
稲妻 4
ショック 4
紅蓮地獄 4
地震 4
<アーティファクト>
殴打頭蓋 4
不死の霊薬 4
生の杯 4
<プレインズウォーカー>
チャンドラ・ナラー 2
<土地>
平地 9
山 9
断崖の避難所 4
◇ ◇ ◇
全てのクリーチャーを1/1のバニラに変えてしまう「謙虚」をキーカードに構築した
白赤コントロールデッキで、クリーチャーによる攻撃やコンボを主体とするデッキには
致命的かも知れませんwww
守りが強力な分、赤の火力を多めに積んで攻撃/牽制の面を強化し、謙虚の影響下でも
弱体化する事なく動き回れる殴打頭蓋(値段がクソ高い)や、プレインズウォーカーの
チャンドラ・ナラーを採用しております。
最終的には白1マナで好きなエンチャントまたはアーティファクトをライブラリーから
サーチできる「悟りの教示者」を入れる予定です。
不死の霊薬と殴打頭蓋によって、ある程度のライフを稼げると見込み、ゲーム開始より
10点以上ライフが多ければ相手に5点のライフを失わせられる様になる「生の杯」を
採用しております……悟りの教示者を買っちゃったら、これを外す事になるかなwww
このデッキを集団戦で使うと、何故かみんなに狙い撃ちされる怪現象が起こりますwww
何がみんなをそうさせるんでしょうか、浅倉にはまったく理解できませんwww
ただみんなのクリーチャーが1/1のバニラになるだけなのに……不思議だなあwww
まるで嫌われるために生まれてきた様なデッキだ……お父ちゃん、悲しいよwww
今日は仲間内から最も嫌われているデッキを紹介します。
<エンチャント>
謙虚 4
忘却の輪 4
<インスタント・ソーサリー>
稲妻 4
ショック 4
紅蓮地獄 4
地震 4
<アーティファクト>
殴打頭蓋 4
不死の霊薬 4
生の杯 4
<プレインズウォーカー>
チャンドラ・ナラー 2
<土地>
平地 9
山 9
断崖の避難所 4
◇ ◇ ◇
全てのクリーチャーを1/1のバニラに変えてしまう「謙虚」をキーカードに構築した
白赤コントロールデッキで、クリーチャーによる攻撃やコンボを主体とするデッキには
致命的かも知れませんwww
守りが強力な分、赤の火力を多めに積んで攻撃/牽制の面を強化し、謙虚の影響下でも
弱体化する事なく動き回れる殴打頭蓋(値段がクソ高い)や、プレインズウォーカーの
チャンドラ・ナラーを採用しております。
最終的には白1マナで好きなエンチャントまたはアーティファクトをライブラリーから
サーチできる「悟りの教示者」を入れる予定です。
不死の霊薬と殴打頭蓋によって、ある程度のライフを稼げると見込み、ゲーム開始より
10点以上ライフが多ければ相手に5点のライフを失わせられる様になる「生の杯」を
採用しております……悟りの教示者を買っちゃったら、これを外す事になるかなwww
このデッキを集団戦で使うと、何故かみんなに狙い撃ちされる怪現象が起こりますwww
何がみんなをそうさせるんでしょうか、浅倉にはまったく理解できませんwww
ただみんなのクリーチャーが1/1のバニラになるだけなのに……不思議だなあwww
まるで嫌われるために生まれてきた様なデッキだ……お父ちゃん、悲しいよwww
DEATHRASH / 05
−注意−
当作はグロテスクな表現を多く含むため、R−15指定とさせていただきます。
苦手な方は予め閲覧をお控え下さい。
また、当作は暴力などの犯罪行為を助長する物ではありません。
現実と虚構の区別が困難と思われる方の閲覧は堅く禁止いたします。
万が一の場合、私・浅倉明および当ブログは一切の責任を負いません。
全て、各閲覧者様の自己責任でお願い申し上げます。
※過去の話を読む場合はブログ右端の「カテゴリ」→「小説」から検索できます。
05 : Departures After The Tragedy −惨劇からの旅立ち
♪ THE END / EBONY TEARS
99年「A HANDFUL OF NOTHING」収録の8曲目。
タイトル通り、終わりへと向かってゆく様な退廃的で硬派なデスラッシュ。
◇ ◇ ◇
「……!!!」
飛び掛ってくる魔物。
それをかわすジャックの動きに余裕はない。
――突ける隙ならいくらでもある。
だが、その一歩を彼は踏み出せず、握る刃を未だ浴びせられない。
本能が鳴らす警笛が彼の心臓を鷲掴みにし、身を縛り付けていた。
彼は戦場ではいつもクリストフ達の背に付き従い戦ってきていた。
単身で魔物と戦った事もなければ、単身で勝った事もなく――
――生き残った事もない。
訓練ならこれまでに腐るほど重ねてきた。
だが、相手は剣術の心得すら知らぬ怪物であり……今は死と隣合わせの実践。
極限の緊張の中で冷静さと共に忘れかけたそれが、どこまで武器になるのか。
――彼にとって生死を賭けた試練であった。
◇ ◇ ◇
――フォールン南西の戦場。
彼方の聞こえた轟音に、その場の誰もが戦いの手を止める。
そして、遠く丘に見えるシュラプネルから立ち上る粉塵に魔族達は歓喜する。
「見てみろ……貴様等の城が落ちる所だぞ」
嘲笑う魔人達。
それを憎らしげに見やるシュラプネルの兵達。
「これまでの我々への報いだ……次は貴様等が惨めな思いをする番だ」
「何が報いだ……貴様等は排除されて当然の事をしているだろうに?」
「愚かな……貴様等が魔族と呼ぶ全てが悪だとでも思っているのか?」
投げかけられた疑問に兵達は沈黙する。
それはそれを訴えかけた魔人だけの言葉ではない。
――その場にいる魔人全てから投げかけられた言葉であった。
「日向や日陰に限った事じゃない……貴様等は同じ日向同士でも、肌の色や生まれた国で
他人を差別し蔑んでいるだろう……違うか?」
「…………」
それは否定できない事である。
人間が肌の色などで同じ人間を不当に差別する行為は確かに存在する。
全ての者がそうではないと言ってしまえば、それは一概に絶対悪と蔑まれる魔族達にも
全く同じ事が言えてしまうのだ。
「我々は違う……同じ日陰、肩身の狭き者同士――」
魔人の言葉は、明後日の方へ飛んでゆく自分の首と共に断ち切られた。
首を失ったその身体が夜の闇に血を噴き、ゆっくりと倒れる。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ……知った事か、化け物が」
返り血に塗れ一人の兵が毒づく。
彼が駆け寄り、訴えかけに夢中になった魔人の首を切り落としたのだ。
「人間、自分の事で手一杯なんだよ……いちいち、そんな事に構ってられるか」
「貴様等……」
自分達の思いを切実を訴えていた仲間を惨殺され、この上ない侮辱を受けた。
「皆殺しだ……貴様等全員、皆殺しだぁぁぁぁっ!!!」
敵意や憎悪を超え、魔人達の形相は完全な殺意に染まる。
「テメエ等、何ボサッとしてんだ!?化け物の話に丸め込まれてんじゃねえ!!!」
恫喝され、戦意を忘れかけた兵達は得物を構え直す。
――晴れぬ顔の者……澄まし顔の者……猛る顔の者……。
無惨に首を断たれた魔人の訴えに、兵達はその顔の下で何かを感じたろうか。
人間と魔族……双方が再びの激突を始める。
「さっさと片付けて街へ戻るんだ!トロトロしてたら街は終わりだ!!!」
◇ ◇ ◇
シュラプネルに突入したドラゴンは、宿営所の屋上付近に取り付いた。
その衝撃に宿営所の建物は揺れ、一部が崩れ落ちる。
「だめです、戻って下さい!!!」
このままでは瓦礫の下敷きだ。
危険を感じた住民の一部が、兵の制止も聞かず屋内へと駆け出す。
「落ち着いて下さい!外は危険です!」
「今ここを出ては……おい、待て!待てって……!!!」
彼等を追いかけ、必死に引き止めようと走る兵達。
屋外に出てしまった人々を追い、自分達も外へ出ようとした矢先――
――彼等の目の前が炎で埋め尽くされた。
「……!!!」
追う足を止めた兵達の顔を凄まじい熱気が襲う。
建物を一歩外に出た先が、赤々と燃え盛る炎に染まったのだ。
取り付いた屋上から、ドラゴンがそこへ炎を吐きかけたのだ。
――外へと飛び出した人々は、一人残らずその炎に飲まれた。
中に留まった人々がその光景に震え上がり、悲鳴を上げる。
「外は危険です!皆さん、落ち着いて下さい!!!」
これ以上の犠牲を出すまいと兵達は踵を返し、人々に叫ぶ。
――それに間入れず、地面と宿営所が再び激しく揺れる。
「……!!!」
振り返る兵達の先……そこには、屋上から敷地へ降り立ったドラゴンの姿。
自身が放った猛火の中でも涼しげに、ドラゴンはそこから屋内を覗きこむ。
ドラゴンはその巨体ゆえ建物の中までは入ってこれない。
――だが、それで果たして幸いだろうか。
大きく獰猛な二つの瞳。
そこに映す逃げ惑う虫けら達の姿に、ドラゴンの口元が笑みを浮かべたかに見えた。
◇ ◇ ◇
――間に合え。
林を出たノエルは街の建物の上を飛び移り、シュラプネル宿営所へ向かっていた。
彼の位置からも、丘にそびえる宿営所が煙を立ち上らせているのが分かった。
ギルディアと戦っている間に、状況は目に見えて悪化していた。
◇ ◇ ◇
――喉を低く唸らせ、ドラゴンが激しい炎を吐きかける。
出入り口に一番近かった兵が、その炎にたちまち火達磨と化す。
だが、仲間達にはそれを助ける暇さえない。
「左へ誘導しろ!地下から避難させる!!!」
住民達は奥の突き当たりを左へと案内された。
そこに古びた鉄の扉が現れる。
――それは地下通路へと通じる扉。
長い地下通路を抜けると、宿営所の裏の森へ出られる様になっている。
かなりの年月使われておらず、今は中がどうなっているか分からない。
だが、この状況で人々を安全な場所へ避難させる手段はこれしかない。
「自分達が先導します!ついてきて下さい!!!」
鍵を取ってくる暇さえない。
施錠された扉を勢い良く蹴破り、兵達は後に続くよう人々に促す。
◇ ◇ ◇
――駆けつけたクリストフは、その惨状を目の当たりにする。
まず目に飛び込んできた、火の海と化す宿営所の敷地。
その火の海で既に黒い塊となっている、何人もの人間。
そして、その向こうに見える巨大なドラゴン。
「クリストフさん!!!」
敷地内にいる数人の兵がクリストフに気付き、駆け寄ってくる。
彼等は辛うじて、先ほどのドラゴンの猛火から逃げ延びていた。
「街の人達はどうした?」
「中に避難しています!」
だが、彼等に住民達の安否を訊ねてもそこまでしか分からない。
中の部下達が地下から人々を逃そうとしている事は、誰も知らないからだ。
――クリストフの視線が、その宿営所へと炎を吐きかけるドラゴンに向く。
「調子に乗るなよ、貴様……!!!」
クリストフの両手が剣の柄を強く締め付ける。
憤る彼にも気付かず炎を吐き続けるドラゴン。
クリストフが駆け出そうとした瞬間……突然、ドラゴンの周囲で爆発が起きた。
『……!!!』
何事かと動きを止めるクリストフ。
彼等の傍らを、何か黒い影がドラゴンへと向かっていった。
「おおおおおおおおおおおおっ!!!」
凶暴な雄叫びでそれはドラゴンに飛び掛り、手にした斧を振り下ろす。
ドラゴンは炎を吐くのをやめ、敷地内にけたたましい悲鳴が響き渡る。
容赦なく続け様に振り下ろされる斧……四散するドラゴンの血肉と鱗。
――それはノエルであった。
ドラゴンが身を振り乱し、ノエルは空中へ投げ出される。
だが、彼は斧を持ったまま猫の様に体勢を整え着地した。
そこはちょうど、クリストフ達に背を向ける位置だった。
「クリストフさん……あいつって……」
「ああ……昨日ここへ押し入った奴だ」
クリストフ達は戦意を忘れ、呆然とそれを眺めていた。
昨日の敵が突然自分達に加勢しだした……不可解でも無理はない。
だが、訝しがる彼等の言葉も視線も今のノエルには届いていない。
本来の敵に背を向けたその状況でさえ、彼にはドラゴンしか見えていない。
――クリストフは、その身に負っているおびただしい生傷に気付く。
それは昨日に負った傷では明らかにない。
ノエルの身体の至る所には、乾き切らぬ血の赤が目立っている。
それはつまり、今しがた彼が何かと戦っていた事に他ならない。
――クリストフは駆け寄り、ノエルのすぐ横に立つ。
「……何のつもりだ、貴様」
「見たままだよ」
ノエルは一瞥もくれず言葉を返す。
ドラゴンは奇襲を受けながらも、その動きはさほど鈍っていない。
「頼みのあの剣もないのに、今のあんたに何かできるの?」
「心配には及ばんさ……お前もやはり勘違いしているな?」
「……?」
ノエルは訝しげに細めた横目でクリストフを見る。
クリストフが握る剣は、昨日とは明らかに別物だ。
さほど装飾もない無骨なその剣に、何か秘密があるとも一見思えない。
だと言うのに、それを握るクリストフのその顔は不敵に微笑んでいた。
◇ ◇ ◇
「……これ自体はただの鉄の塊だ」
「えっ?」
ジャックは言われたその言葉が信じられなかった。
――以前、ジャックがクリストフ達の遠征に同行した時である。
彼等の行く先に現れた巨大な蜘蛛の魔物。
クリストフはそれを心象の刃による炎で、たちまち丸焼きにして葬ったのだ。
目を丸くするジャックに、クリストフがその力の本質を話して聞かせたのだ。
「本当だ……本来『心象の刃』とは、剣ではなく技の名だ」
「技?……剣の名前じゃなくて?」
人々に聖剣とも謳われるその剣が、実はただの鉄の塊なのだという。
そして、今しがたの力が剣の物ではなく単なる「技」だというのだ。
「もっとも、俺が勝手に付けた名だがな……この剣でなくとも槍や斧……その気になれば
落ちている木の枝でも、これと同じ事はできる……大事なのはこの手と心だ」
クリストフは両手を開き、ジャックの前に出してみせる。
ジャックは手品の種でも教わっている様な気分になった。
「ただし、コツはそうそう掴めん……ここでそれが出来るのは俺一人だけだ。だからこそ
皆は技ではなく剣の名前だと勘違いしているわけだが……」
苦笑するクリストフ。
ジャックにはやはり信じられない。
「昔、出先で年老いた旅人に教わったんだ……魔物も多い土地だと言うのに、その老人は
何の武器も持たず旅をしていてな。危険だと声をかけると、自分にはこれがあると言って
ただ杖から炎を呼び出して見せた……魔術師でもない普通の老人がだ」
魔術師でもなく魔力も持たぬ老人に、どうしてそんな事ができるのか。
当時のクリストフにも到底信じられぬ事だったと言う。
――だが、その奇跡はやはり魔術を用いた物ではなかった。
老人はかつて剣士として各地を旅していた。
魔術の才覚もその源となる魔力も持たない、全くの凡人だ。
そんな彼は旅の前から使い続けた一本の剣を、自身の半身も同然に扱っていた。
ある時、魔物の大群に遭遇した際、その刃が突然に赤い炎を上げて燃え盛った。
その炎は彼の意思と同化した様に魔物達へと向かい、たちまちに焼き尽くした。
――若かりし頃の彼には、何が起きたか理解できなかった。
そこには魔術師でもない自分だけ。
手にしている物は、寂れた街の鍛冶屋で打たれた安物の長剣。
それにどうして、あれだけの奇跡が起きたと言うのだろうか。
すぐにはそれを理解出来ぬ彼であったが、その後の旅路でも二度三度起こるその奇跡を
ちっぽけな凡人の自分と、その鉄の塊が起こしていると次第に理解していったという。
――ある時は敵を焼く武器として、ある時は暗闇を照らす松明として。
危険極まりない単身での旅で、それは何よりも頼れる物だったと言う。
次第にその奇跡を、彼は自分の意思で呼び起こせる様になり、やがてそれが他の誰にも
真似出来ず、誰にも知られていない唯一無二の物である事も明らかになっていった。
――こうして、老人は後に「心象の刃」と呼ばれるそれを開眼したと言う。
「是非自分もと頼み込み……それから一週間ほど指南を受けた」
「……それで?」
「ダメだった。だが、その老人と別れた後も修行を重ね……まあ、四年ほど掛かったか。
物にしてみて分かったが、剣や何かしら武器と言うのも楽器や絵筆と同じだ……使う者の
感情や性格を形にする事ができる……その術を誰も知らず、信じないだけだ」
「は、はあ……」
「信じられんと言う顔だな……試しにお前の剣を貸してみろ」
ジャックは自分の腰に差した剣をクリストフに手渡す。
クリストフはそれを鞘から引き抜くと、それを眺める。
「…………」
「…………」
「……剣はもっとよく磨け」
「あ、はい……すみません」
「いいか、よく見ていろ?」
念を押すクリストフ。
すると、彼は借り物であるその剣からも、同じ様に蒼白い炎を呼び出して見せた。
「……!!!」
ジャックは信じるしかなかった。
彼が握っているのは、間違いなく自分が普段使っているただの剣だ。
――その話は間違いなく本当だ。
「どうだ……教えてやっても良いぞ?」
「……!!!」
「物にし戦場で手柄を立てれば、お前も若くして出世できるかもしれんぞ?」
クリストフは将来ある若者をからかう様に、クスリと笑う。
ジャックは有無を言わずそれに頷いた。
「教えられる事は全て教えてやる……後は自分で物にしろ」
◇ ◇ ◇
――そうして、早くも一年近い。
地道に修行を始めたジャックだが、剣は未だ彼の呼びかけに無言のままである。
師が四年も掛かった物を、弟子がその場で出来るはずもない。
――肝心なのは持つ者の心と、それを柄に伝える手。
クリストフからの指南が思い出される。
心を静めれば良いのではなく、かと言って荒ぶるでもない。
手足の如く血を通わせてゆくかの様な感覚が大切なのだと。
――言わば、身の一部にするが如く。
「……!!!」
だが彼の意識は、襲ってきた魔物の爪に否応なく現実へ引き戻される。
実際、慣れぬ単身での戦いで未だ会得出来ぬ技を使うなど無謀で然り。
――勝機など生むはずもない。
やはり堅実に攻めてゆくしかない。
辛うじてだが、ジャックの動きと思考は徐々に戦いに慣れ始める。
――勢い任せでは殺られる。
魔物の身体は彼よりも遥かに大きく、その太さも相当だ。
半端な事では反撃に遭い、逆に仕留められるのがオチだ。
――攻撃を誘い、反撃で徐々に削り落とす。
ジャックは戦術を導き出す。
戦いは少しずつ、彼の戦士としての思考を鍛え始めていた。
クリストフに従い漫然と動いていただけでは得られぬ物だ。
――魔物が動く。
ジャックもまた動く……だが、それに怯む事はない。
避けると共に剣を振るい、刃が魔物の肉を切り裂く。
思わぬ痛みに魔物は苦悶する。
――出来た。
ジャックは怯えも半ばに、少しの安堵と勝機を見出す。
来てみろと心中で次を誘うや、再び魔物が彼に向かう。
次第に魔物の身体に傷が目立ち出し、その動きを鈍らせ始めた。
――形勢はジャックに傾きつつある。
「……!!!」
だが、彼は勝機を見誤った。
慢心か焦りか……彼は欲をかき過ぎてしまった。
立て続けに彼が剣を振るう中、身を裂かれながらも魔物が反撃に出てきた。
――その腕がジャックの頭部を狙う。
ジャックはちょうど剣を振りかぶった所であった。
その腕を受ければ、彼の頭は身体が切り放される。
咄嗟にジャックはその間へ刃を滑り込ませる……滑り込ませたその時――
――突然、白い光が生じた。
◇ ◇ ◇
「……!!!」
「驚いたか?」
その不敵な笑みの正体。
クリストフの剣に宿った蒼い炎に、ノエルは驚きを隠せない。
彼の炎は昨晩に自分が折った剣でしか操れない物と思っていたからだ。
だが、昨日の物とは違うそれにも炎は同じ様に宿り、燃え盛っている。
「……行くぞ」
クリストフが剣を振るうや、炎が独りでに宙を泳ぎ出す。
そして、ドラゴン全身をたちまち飲み込んで燃え上がる。
――自分が炎を浴びせかけた虫けらと同じに炎に焼かれるドラゴン。
「すげえな、やっぱりクリストフさんは」
「ドラゴンでさえこれとは……恐ろしい」
自分達の出る幕はない……部下の兵達はもはや傍観者だ。
彼等の言葉には、クリストフの味方で良かった安堵と畏怖を垣間見せる。
◇ ◇ ◇
「……!!?」
それはジャックが手に握った刃からであった。
それに接触した魔物の腕は弾き返され……いや、違った。
魔物の腕はそれと接触するや焼き切れ、切断されたのだ。
――絶叫し、のたうつ魔物。
ジャックにも何が起きたかは分からない……だが、迷う暇などない。
彼は無我夢中で、光を帯びたその剣の刃を魔物の脳天に叩き込んだ。
――ジャックに鮮血を浴びせかけ、魔物はとうとう崩れ落ちた。
「…………」
ジャックは手にした剣の輝きを見つめる。
それは月明かりに輝いているのではない。
紛れもなく身近な何かが作り出した輝き。
――それこそが心象の刃であった。
クリストフとは異なり、ジャックは白いその光を刃の上に呼び出した。
彼の想像とは違っていた……それは何かを誤ったわけでは決してない。
――その形はその者にしか作れず、同じ物は二つとしてないのだ。
「…………」
ジャックの興奮は冷めやらず、全てに実感が湧かなかった。
魔物は倒れた地面の上で徐々に力を失いながら、やがて動かなくなる。
ジャックの握った剣からもまた、気付けば先ほどの光は失われていた。
――行かなきゃ。
クリストフに剣を届ねば。
ジャックは戦いの慌しさに埋もれてしまった、肝心な事を思い出す。
一度地面に置いたクリストフの剣を拾おうと手を伸ばす。
――だが、不意の殺気がそれを止めさせる。
振り返る背後……そこに光る四つの赤い瞳がジャックを凝視していた。
魔物だ……その数は二匹、いずれもやはりジャックより遥かに大柄だ。
「……来てみろよ、化け物」
立ち尽くし、吐き出す言葉。
今のジャックに先ほどまでの怯えはない。
二匹の吠える声が、冷たい夜の大気を貫いて響き渡る。
◇ ◇ ◇
放たれた蒼い炎は、ドラゴンが崩れ落ちるまで燃え続けた。
横たわるドラゴンの全身は焼け焦げ、黒ずんだ巨大な物体と化していた。
「お前達は中の様子を見に行け……街の人々が無事かを確認するんだ」
「……は、はい」
兵達は命じられ、中の様子を見に建物の中へと走っていった。
彼等の返事にどことなく戸惑いがあった事に、クリストフは気付いていた。
――その原因であるノエルもだ。
邪魔者を一人残らず追いやった所で、クリストフはノエルに向き直す。
ノエルは既にその視線をクリストフに向けていた。
「……まさか、お前に手伝われるとは思わなかった」
「手伝った様に見えるのか……都合の良い目玉だな」
少なからず礼を含むその言葉に、ノエルは皮肉で返す。
「どうやら向こうでもカタがついた様だ」
「……!」
二人は丘の下に広がる街を見やる。
その姿は遠く小さいが、前線の部隊が街の応援に駆けつけて来た様であった。
それは前線での戦いが、シュラプネル側の勝利に終わった事を意味していた。
あれだけの数と勢いならば、街の魔物もそう掛からず全滅だろう。
「てこずったが……なんとか守り抜けた」
「…………」
ノエルもまた半壊したフォールンの街を見つめる。
所々に火と煙が見え、遠目にも街が全くの無事で済んだとは言えない。
ギルディアが言った通り、自分の復讐がその引き金となったのだと彼は――
「……いつまでよそ見をしている?」
「……!!!」
一難去った束の間の余韻を、一振りの刃が断ち切る。
ノエルは飛び退き、それを振るってきたクリストフに向き直す。
「お互い、敵がまだ目の前に残っているだろうに……ボウッとしおって」
見透かした様に皮肉げなクリストフ。
「何か思う所でもあって尻込みか?なめるなよ、貴様?」
――敵ながら、クリストフはノエルの心を悟った。
ギルディアには理解できなかった彼の矛盾。
人々の安全を奪おうとしながらも、その危険を望まぬ矛盾。
関係ない者達を巻き込み、街を半壊させてしまった罪悪感。
それにより微かに生じた、揺るがぬはずの復讐心の揺らぎ。
――皮肉にも、ノエルはそれを決して相容れぬ相手に理解されたのであった。
「……ははは」
ノエルは小さく笑った。
どこか自分を嘲る様な、何かを誤魔化す様な笑みにも見えた。
「ちょっと気が抜けただけさ、後はあんただから」
「そうか、それは心外だったな……すまなかった」
「ははははは……」
「ふっふっふ……」
気味の悪い笑みを浮かべる二人。
見抜かれながらも、ノエルが素直にそれを認める事は決してない。
クリストフもまた、それを言葉にして説き明かすなど決してない。
決して相容れぬからこそ口にはしない……という敵だからこその仁義である。
――次はお前だ。
互いから笑みが消えるや、各々の胸中で爆ぜるその念。
刃は燃え、野獣は吠える。
――そう、彼等に決着など着いていない。
変わった事は、邪魔者がいなくなったというだけ。
気兼ねなく殺し合える様になっただけの事である。
◇ ◇ ◇
――叩き折られたジャックの剣が宙を舞った。
壁に激突し倒れるジャック。
それを見下ろす二匹の魔物。
一匹をやっと倒せたジャックが、二匹を相手に一分と持つはずもなかった。
二匹が迫る……だが、今のジャックにはもう恐怖を感じる事すらできない。
――突然、その二匹から悲鳴を上げた。
彼等の身体を背後からいくつもの刃が貫いたためであった。
崩れ落ちる魔物達……その背後には立っていたのはシュラプネルの兵達であった。
「おい、大丈夫か!?……おい!!!」
内の一人がジャックに耳元で呼びかけ、その身を揺さぶる。
だが、ジャックは目を開かない。
鼻と口から血を流しグッタリしたままだ。
「息はあるが、こりゃ傷がちぃと深そうだ!」
「今は医者も上に避難しちまってるだろうし……参ったな」
だがその時、彼等は住民などいないはずの街に人影を見つけた。
それはすぐ近くの民家の玄関から、彼等をずっと盗み見ていた。
「おい、あんた!……そこのあんた!!!」
兵が怒鳴りながら駆け寄ると、その人影は少しすくみ上がった様であった。
七十代ほどの男性で、他に身寄りもないのか恐らく避難し損ねたのだろう。
「上に避難しろってあれほど言ったろうが!死にたいのか!?」
「あぁ……すみません」
「こいつを頼む!まだ街には魔族がいる!ジッと隠れてろ!?」
「は、はぁ……」
兵達の気迫に押され、老人はオロオロしながらジャックを受け取る。
――遠くどこかで、新たな魔物の雄叫びが聞こえて来る。
「いくぞ!」
「頼むぜ、じいさん!」
兵達はその声のする方へ風の様に走り去っていった。
――その道の片隅に転がるクリストフの剣。
ジャックに意識があったなら、それを届けて欲しいと必死に懇願したはずだ。
その刃は主の手に帰る事も叶わず、道の上で砂埃にまみれてゆくのであった。
◇ ◇ ◇
――八年前、クリストフは仲間達とある丘の上にいた。
そこからは、トアフォスタの村が炎を上げ燃えてゆく様が見えた。
炎に焼かれ、多くの命が黒煙と化し空へと昇ってゆく所であった。
――聞こえてくるすすり泣く声。
それはクリストフ達の傍らにいる少女からであった。
銀髪を結いお下げにしている十代半ばほどの少女だ。
「……セシル、しっかりおし」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
年老いた老婆が伸ばした手を、彼女は乱暴に振り払う。
垣間見たその顔は涙に濡れ、深い悲しみに歪んでいた。
野犬にでも襲われたのか、その右腕からは赤い血を滲ませていた。
「何で……?」
少女が声を漏らし、顔を上げる。
本来なら花の様に可憐であろうその顔は、激しい悲しみと怒りに狂っていた。
「何でこんな事をするの!?あの人達が何をしたの!?何で殺されなきゃいけないの!?
まだ小さい子供やお年寄りだっていたのに……何でなの!!?」
セシルと呼ばれた少女は顔を上げ、クリストフ達に訴えかける。
だが、それをまっすぐ見つめ返せる者などそこにはいなかった。
「お祖母様も何をしていたの!?白夜公なんて呼ばれているくせに、こんな事にならない
ために何かできなかったの!?こんな物を見せるために私をここまで連れて来たの!?」
「セシル……酷い事だけれど、これは仕方ない事なんだ」
「人殺し……あなた達は正義でも何でもない、ただの人殺しよぉぉぉぉ!!!」
感情のまま、怒りを撒き散らすセシル。
それは到底治まり様のない物であった。
――同じ人間を虐殺する光景など見せられては。
「!……ジェフリー」
兵の一人が誰かの名を呼んだ。
それはクリストフ達に遅れ、一人の青年が丘へと上がってきた青年の名だ。
ジェフリーと呼ばれたその成年もまた、彼等と同じ様に鎧を着込んでいた。
「どこへ行っていた?」
「……いや、野暮用だ」
クリストフ達が燃え上がる村を後にした時、ジェフリーの姿はそこになかった。
彼だけが遅れて丘へと上がってきたであった。
「…………」
ジェフリーは振り返り、仲間達と同じ様にそこから燃え上がる村を見る。
クリストフはジェフリーの隣に立ち、共にそれを見る。
「……俺達、良い様に踊らされただけじゃないのか?」
「言うな。責任のなすり合いなどしても、俺達がこうしたのは事実だ」
「何が悪かったかを口にする勇気がないだけじゃないのか、お前は?」
「…………」
「それで割り切れるのか?お前にも吐き出したい言葉があるんじゃないのか?こんな事を
これからも繰り返すのか?これがシュラプネルの在り方なのか……?」
「……よすんだ、クリストフ」
ジェフリーは、クリストフにそれ以上の問いかけを許さなかった。
「俺達は取り返しのつかない事をした……本意か不本意かは関係ない……あそこで燃える
村は俺達の手でそうしたんだ……俺達は何の罪もない同じ人間を殺した……」
重々しく断続的に言葉を紡ぐジェフリー。
決してクリストフの顔を見ようとしないそこに、押し殺した感情を滲ませる。
「俺達はきっとこの先もこんな理不尽を強いられる……もしかしたらこれより悲惨な事が
待ち受けているかも知れない……俺達が望まなくともだ」
見据えられた破滅的な未来。
口にするジェフリーの声と身体は震えていた。
――淡々と口に出来るはずもなかった。
「だが、俺はいずれ親父からこのシュラプネルを継がなければならない。こんな理不尽が
繰り返される時、俺はその中心に立たねばならない……」
「そんな――」
――そんな事をお前が背負う必要なんてあるのか?
吐き出したい衝動をクリストフは咄嗟に抑えた。
自分の知る限り、このジェフリーという男は極めて誠実で善良な人間だ。
そんな男が父親のために、望みもしない悲惨な将来を歩もうとしている。
――止めたかった……無理だとしても、友情を抱く相手だからこそ。
だが、クリストフにそれは出来なかった。
馬鹿げていても、負わなければならぬ物が時として人にはある。
クリストフも……ジェフリー本人もそれを知ってしまっているからだ。
そして、無責任にそれをかなぐり捨てる事を彼等は美徳だと思えない。
「クリストフ……出来るなら俺はお前についてきて欲しい……お前だけじゃない、ここに
いるみんなもだ……俺には共にたくさんの罪を背負ってくれる人が必要だ」
「…………」
「……頼む」
ジェフリーの切実な懇願に、クリストフはその場で答える事はできなかった。
押し黙り、隣に佇む事しかできなかった。
――彼方のトアフォスタは、誰から救われる事もなく無情に燃え続ける。
生きる限り重ねてゆく年月の下、彼等はその景色さえ埋もれさせてゆく。
だが、どれだけ埋もれようと、彼等のその記憶が輪郭を失う事などない。
――流れた血と燃える炎……その色もまた忘却に色褪せる事がない。
◇ ◇ ◇
――俺達は必ずしも正義じゃない……いや、正義などではない。
結局、ジェフリーの願いを受け入れられず去っていた者は多くいた。
だが、俺は留まった……共にシュラプネルを守り続ける事を選んだ。
人殺しめ、故郷の仇めと蔑まれようと……俺達は前に進むしかない。
――例え……過去の亡霊を前にしてもだ。
憎まれ復讐されようと当然の報いだ。
だが、俺達は悪でありながら、滅ぶ事は許されない。
――俺達は人々にとっての正義として、存在し続けねばならない。
横たわる巨大なドラゴンの前。
刃と手甲がぶつかり合い、甲高い音を鳴らせる。
――火花が散ると共に、二人が互いに飛び退く。
「……みんな死んだ……父さんも母さんも、友達も……みんな死んだ」
息を切らしながら、ノエルが口を開く。
昨晩の戦いに続き、ギルディアを下した彼の身体は限界に差し掛かっていた。
「……マルクはよそ者だけど良い人で、アイネの姉ちゃんと結婚するはずだった。友達の
ダグは本ばっかり読んでるから、俺が外に連れ出したりしてた。エドガーは釣りが好きで
あいつの父さんから一緒にやり方を教わったりした……」
「…………」
「グロリアおばあちゃんは病気でもう長くなくて、息子さんが最期を看取ろうと仕事まで
辞めて実家に帰ってきてた……フィリップのじいさんは無口で静かな人だったけど、俺や
みんなによくお菓子をくれたし、飼ってた馬やロバに乗せてくれたりもした」
――次々に挙がる亡き人々の名前。
クリストフには、それらが誰の名前だったかさえ分からない。
「もうみんなはいない、帰る家もない……あれからの八年、お前達を殺す事ばかり考えて
乞食みたいになりながら生きてきた……こんな人生があってたまるか」
ノエルは腰の鉄鎖を掴むと、顔のすぐ前でそれを両手で横に張らせる。
「……殺してやる」
そして、その奥で狂気に血走る両目を見開く。
「来い……俺を殺してみろ、亡霊」
ノエルが吠える。
地を蹴って飛び、クリストフを目掛け鉄鎖を振りかぶる。
――清き正義はそこにない。
奪われた者達の復讐を叫び、血に狂い荒ぶる者。
背負う物のため、それすら打ち砕かんとする者。
死闘の果てに得る物とは、血みどろの生か無惨な死のいずれか。
――栄光など在りはしない、ただどこまでも悲惨な闘争である。
◇ ◇ ◇
――戦いはシュラプネルの勝利に終わった。
南西での戦いで半数以上の仲間を失いながらも、兵達はフォールンへと舞い戻った。
そこで目にした半壊する街に彼等は怒り狂い、街の兵達と共に魔物達を全滅させた。
「まだ宿営所にドラゴンがいる!急ぐぞ!」
そして一同に、最後の敵が待ち受けているであろう丘の宿営所へ向かい出す。
◇ ◇ ◇
狭く長い地下通路を抜け、住民達は兵に先導され夜の森の中へと出た。
長い年月にも崩落する事なく、通路は無事に彼等を森へと抜けさせた。
通路は大人二人分ほどの幅しかないため、外へ出た住民達は泥まみれであった。
――彼等にはそこから、後にしてきた宿営所を遠く見つめる。
あそこでは未だドラゴンが暴れているのか。
宿営所や自分達の住まいである街はどうなってしまうのか。
人々は寒空の中、いつ終わりが来るとも分からず、フォールンの行く末を見守る。
◇ ◇ ◇
「……!!!」
突然……ノエルが動きを鈍らせる。
肉体の上げる悲鳴が、ついに押し殺し切れぬほどになったのだ。
――それは葬ってきた者達の怨念だったかもしれない。
クリストフはその一瞬を決して見逃さない。
けしかけた炎が事もなくノエルを捕らえる。
のたうつノエル……その心臓を貫かんとクリストフの刃が閃く。
――捉えた……かに見えた。
その一突きは、彼の左脇すぐ下を掠めて外れた。
ノエルは炎に飲まれながらも、辛うじて刃から心臓を逃した。
――ノエルの右腕が伸びる。
「……!!?」
肩を掴まれ、クリストフは瞠目する。
ノエルは彼の身体に絡まり密着すると……その首筋に噛み付いた。
「……!!!」
苦悶するその一瞬の内に、歯はクリストフの首に深々と食い込んでゆく。
――噴く血煙に宙が染まる。
首を噛み切られ、クリストフは崩れ落ちる。
ノエルの口から吐き出された赤い塊が、石畳の上を跳ねる。
炎に飲まれながらも、彼は獣の如くその喉を噛み千切った。
――二人の戦いもまた終わりを告げた。
「……言い残す事はあるか?」
死の宣告も同然に、ノエルはそう訊ねる。
満身創痍になりながらも、その瞳には変わらず冷酷な憎悪が宿る。
血を流して止まぬ首を押さえながら、クリストフは見上げるノエルへ言葉を紡ぐ。
「貴様に……下げる頭など……なィッ……」
「…………」
辛うじて吐き出すその言葉さえ、懺悔の念は微塵もない。
彼は最後まで、自分を憎む者にとって許しがたい存在である事を貫く。
――その時、ノエルの背後で何かが唸り声を轟かせる。
ドラゴン……それはクリストフの炎に焼け死んだと思われたドラゴンだった。
息を吹き返した……いや、二人を欺きこの機会を伺っていたのかも知れない。
その巨大な口を開き、二人へと飛び掛る。
「そら……餌だぞ!!!」
ノエルはクリストフの身体を掴み――
――視界を埋め尽くさんと迫るその大口へ、彼を放り投げた。
「……うあああああああああああああっ!!!」
凄惨な悲鳴もろともクリストフを飲み込み、ドラゴンの大口が閉じる。
上に飛び退いたノエルのすぐ下を、ドラゴンの巨大な頭が滑ってゆく。
――ドラゴンのその瞳は、最後に自分の眉間へと迫る靴の裏を映した。
◇ ◇ ◇
生き残った兵達が宿営所へ駆けつけた時、そこに動く物は一つもなかった。
転がる焼け焦げたいくつもの死体に、頭部の潰れた巨大なドラゴンの死骸。
敵は倒れ、戦いは終わった様だ……だが、そこには味方の姿がない。
「クリストフ!……誰かいないのか!!!」
兵達は辺りを見回す。
だが、そこには一向に彼等以外の姿はなかった。
「中だ、中を探すぞ!」
兵達は宿営所の建物の中へと駆け込んでいった。
◇ ◇ ◇
フォールンの喧騒を背に、ノエルは森の闇を行っていた。
彼は朝を待つ事なく、明かり一つない闇の中を次の戦場へと旅出つ。
草木に血の染みを残し、重い身体を引き摺り、足を石に取られ転びながら。
――まだだ……まだ、くらばらない。
遠く去ってゆくその軌跡に、荒い吐息に乗せ残すその情念。
視界に広がる夜の暗幕……その先に浮かぶ目には見えぬ幻影を、彼の瞳は睨む。
――ここと変わらぬであろう、血みどろの戦場……その幻影である。
◇ ◇ ◇
――六日後……ジャックは意識を取り戻した。
六日後の昼に目覚めた彼は、見知らぬ部屋のベッドであった。
部屋は明るい……今はどうやら昼らしく、窓の外には青空と雲が浮かんでいる。
「……!!!」
だが突然、彼は弾かれた様にベッドから上体を起こす。
――敵はどこだ。
ジャックは思い出した。
自分は戦場で魔物達に打ちのめされ、意識を失った。
顔や身体に手を当て、まだ自分が生きている事に少し安堵する。
――だが、それで済む話ではない。
肝心な今すぐ知りたい事が山ほどある。
戦いはどうなった……どうして自分はここにいるのか。
みんなはどうなった……クリストフさんはどうなった。
――だが、部屋には他に誰もいない。
痛む身体に鞭を打ち、ジャックは彼はベッドを降りて部屋を出る。
すると、廊下に出たすぐ先で人と鉢合わせた。
「おっと、どこに行くんだい……目が覚めたのか」
痩せた三十代ほどの男だった。
細い両手がジャックの両肩を掴み、それ以上の行く手を阻む。
「……どこですか、ここは」
「街の医院だよ……魔物と戦って気を失った君を、街の人が手当てしてくれてね。騒ぎが
治まった所で、君をここへ移したんだ……元気そうで良かった」
医院……男はつまり、ここの医者らしい。
ここへ運び込まれた後の面倒も、どうやら彼がを看てくれた様である。
「……あれからどうなったんですか?」
「終わったよ……君達シュラプネルが頑張ってくれたお陰で、この街は何とか守られた。
とは言っても、街のあちこちが壊され、怪我人や死人も多く出ている……方々が後始末に
追われていて、どこも人間も仕事が山積みさ……私もね」
「…………」
落ち着いた口調で説明されても、ジャックは実感を得る事ができなかった。
外の晴れ渡る街の景色と、最後に見たあの戦いの夜がどうにも繋がらない。
このまま大人しくベッドで安静にもしていられるはずなかった。
◇ ◇ ◇
――フォールンの街中。
街の空は青く、陽射しも強い。
ジャックは医者に頼み込み、付き添ってもらう形で外出を許可された。
戦いの爪跡を残しながらも、街には以前の様に人々が行き交っている。
やっぱり終わったんだ……という実感が徐々にジャックに湧いてゆく。
――彼はあの夜に魔物達と戦った場所へとやってきた。
道の傍に見つけたそれをジャックは拾い上げる。
クリストフに届けるはずだったその剣は、道の片隅で砂埃にまみれ続けていた。
「俺、これをクリストフさんに届ける所だったんです……良いですか?」
「いいよ、一緒に行こう」
ついでだからね、と医者は承諾する。
クリストフの居場所を知らないジャックは、ひとまず宿営所の方へと歩き出す。
◇ ◇ ◇
二人は大通りに出るや、無惨な瓦礫と化した建物を目にした。
シュラプネルの兵達が街の人々の協力を得て、その撤去に追われている所であった。
「兵隊さん達も大忙しだ……だが、君はまだ安静にしていなければいかんぞ?」
「……はい」
「おい、ジャックッ!!!」
すぐ前を通りがかった所で、作業していた兵の一人がジャックに気付く。
それはジャックが世話になっている先輩の一人である。
「お前、生きてたのか……どこに行っちまったのかと思ったぞ」
「すみません……今、この人の所でお世話になっているんです」
「彼の主治医です。仕事への復帰にはもうしばらく掛かります」
「そうか……まあ、無理はするな。ゆっくり休め?」
「はい……ところでクリストフさんはどこですか?」
「…………」
「……あの」
ジャックは訝しがる。
先輩は彼がそう問いかけるや、どこか押し黙る様な素振りだ。
「俺、クリストフさんに頼まれて鍛冶屋からこの剣を――」
「……死んだよ」
◇ ◇ ◇
――クリストフが死んだ。
残酷にも、その事実がとうとうジャックに告げられた。
自分が連れて帰る……そう医者を説得し、先輩は彼を街外れの墓地へ案内した。
――そこには紛れもないクリストフの墓。
「…………」
ジャックは立ち尽くす。
真新しい石の墓標には、彼等の名が刻まれている。
それが受け入れがたいその事実を否定させてはくれない。
「見つけたのはドラゴンの口の中で……もう見る影もなかった」
語られるクリストフの無惨な最期。
先輩は事実をあえて包み隠さない。
言わぬも聞かぬも、死と隣合わせの世界に身を置く者として甘えだからだ。
「クリストフが死んで、今の宿営所は大混乱だ……上の方の連中もかなりが死んじまって
下を指揮する奴はほとんど残っていない……他の支部に応援を頼んでいる所だ」
司令塔と兵の多くを失った第52番支部は、事実上の壊滅に等しかった。
生き残った兵達は、今後の自分達がシュラプネルとしてどうすればいいのか、と不安と
混乱に苛まれながら復興に勤しみ続けているのであった。
「……あいつはどうなったんですか?」
「……あいつ?」
「あの黒い奴です!あの前の晩に宿営所へ押し入ってきた黒い奴です!」
「そいつの事は俺には分からん……が、宿営所の護りに就いていた連中が、そいつらしき
黒い奴がクリストフと共にドラゴンと戦っていたと話していた」
「!……あいつが?」
「話した奴等はドラゴンが倒れた後、クリストフに中の様子を見に行けと言われ、その後
どうなったかは分からないそうだ……だが、死体が見つかっていないという事はそいつは
生きて今もどこかにいるのかもしれん」
――ノエルは死んでいない?
だとすれば、奴はどこにいるのか。
ジャックはクリストフからあの夜に聞いた事を思い出す。
あの時……シュラプネルによる八年前のトアフォスタ全滅の真相を話した後。
クリストフは、ノエルが最終的にどこを目指しているかをジャックに話した。
――それによれば……奴の最後の狙いは本部のジェフリー団長。
「あれから姿を見せないらしいが……また、いつ現れるとも分からんな」
「……奴はもうこの街には現れませんよ」
「……ジャック?」
死体が発見されておらず、六日経っても姿を見せない……それはつまり。
――奴はもうこのフォールンにいない。
「ここでの決着はついたって事か……あの野郎」
「なんだ?いきなりどうした……お、おい!?」
先輩は突然どこかへ走り出したジャックに声を上げる。
六日も意識を失っていたとは思えぬ速さで、彼は墓地を走り去ってゆく。
――その片手に、今や形見となったクリストフの剣を握り。
奴が北へ向かったんだ。
ノエルは恐らく、六日前の時点でもうこのフォールンにはいない。
あれから六日も経ち、ノエルはもうかなりの距離を行ったはずだ。
もしかしたら……もうどこかの支部がを襲っているかもしれない。
「どこに行くんだ!戻って来い!俺が連れて帰るって医者と約束してるんだぞ!?」
ジャックは聞こえて来る先輩の声にも立ち止まらず走り続ける。
派手に転ぶ様な音がしようと、彼は決してそれに振り返らない。
――ノエルとジャック。
彼等はそれぞれにフォールンを発ち、それぞれに長い旅路へと着いた。
ノエルはシュラプネル、そして団長ジェフリーへの復讐を果たすため。
ジャックは誇り高きシュラプネルの兵として、それを討ち果たすため。
――それぞれの道程に、彼等はいくつもの物語を築いてゆくのである。
ED : Shot In The Dark / Children Of Bodom
−あとがき−
えー、これにて小説の方は一段落です。
この第5話までで、主人公が最初の戦いを終えるまでの過程を描きました。
ちょっとしたライトノベル一冊分くらいの量にはなったでしょうかwww
ここまで長かった……。
毎日仕事から帰ってきてはコツコツ書いたり書かなかったり。
コミティアまで残り1ヶ月も切ったのに、ネームすらやらず小説ばっかりwww。
小説の方が半端なままでは集中できなそうなので、無理してここまで書きました。
今回も中二病全開ですが、浅倉の情熱がこもっております……ファンタジー万歳。
さあ、いよいよコミティアの原稿だ!さっさと始めないとまた地獄だぞ、俺!
(補足)
各話ごとに、イメージソングとしてお気に入りのメタルナンバーを挙げました。
大体がデスヴォイス全開のエクストリーム・メタルですが、よろしければどうぞ♪
当作はグロテスクな表現を多く含むため、R−15指定とさせていただきます。
苦手な方は予め閲覧をお控え下さい。
また、当作は暴力などの犯罪行為を助長する物ではありません。
現実と虚構の区別が困難と思われる方の閲覧は堅く禁止いたします。
万が一の場合、私・浅倉明および当ブログは一切の責任を負いません。
全て、各閲覧者様の自己責任でお願い申し上げます。
※過去の話を読む場合はブログ右端の「カテゴリ」→「小説」から検索できます。
05 : Departures After The Tragedy −惨劇からの旅立ち
♪ THE END / EBONY TEARS
99年「A HANDFUL OF NOTHING」収録の8曲目。
タイトル通り、終わりへと向かってゆく様な退廃的で硬派なデスラッシュ。
◇ ◇ ◇
「……!!!」
飛び掛ってくる魔物。
それをかわすジャックの動きに余裕はない。
――突ける隙ならいくらでもある。
だが、その一歩を彼は踏み出せず、握る刃を未だ浴びせられない。
本能が鳴らす警笛が彼の心臓を鷲掴みにし、身を縛り付けていた。
彼は戦場ではいつもクリストフ達の背に付き従い戦ってきていた。
単身で魔物と戦った事もなければ、単身で勝った事もなく――
――生き残った事もない。
訓練ならこれまでに腐るほど重ねてきた。
だが、相手は剣術の心得すら知らぬ怪物であり……今は死と隣合わせの実践。
極限の緊張の中で冷静さと共に忘れかけたそれが、どこまで武器になるのか。
――彼にとって生死を賭けた試練であった。
◇ ◇ ◇
――フォールン南西の戦場。
彼方の聞こえた轟音に、その場の誰もが戦いの手を止める。
そして、遠く丘に見えるシュラプネルから立ち上る粉塵に魔族達は歓喜する。
「見てみろ……貴様等の城が落ちる所だぞ」
嘲笑う魔人達。
それを憎らしげに見やるシュラプネルの兵達。
「これまでの我々への報いだ……次は貴様等が惨めな思いをする番だ」
「何が報いだ……貴様等は排除されて当然の事をしているだろうに?」
「愚かな……貴様等が魔族と呼ぶ全てが悪だとでも思っているのか?」
投げかけられた疑問に兵達は沈黙する。
それはそれを訴えかけた魔人だけの言葉ではない。
――その場にいる魔人全てから投げかけられた言葉であった。
「日向や日陰に限った事じゃない……貴様等は同じ日向同士でも、肌の色や生まれた国で
他人を差別し蔑んでいるだろう……違うか?」
「…………」
それは否定できない事である。
人間が肌の色などで同じ人間を不当に差別する行為は確かに存在する。
全ての者がそうではないと言ってしまえば、それは一概に絶対悪と蔑まれる魔族達にも
全く同じ事が言えてしまうのだ。
「我々は違う……同じ日陰、肩身の狭き者同士――」
魔人の言葉は、明後日の方へ飛んでゆく自分の首と共に断ち切られた。
首を失ったその身体が夜の闇に血を噴き、ゆっくりと倒れる。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ……知った事か、化け物が」
返り血に塗れ一人の兵が毒づく。
彼が駆け寄り、訴えかけに夢中になった魔人の首を切り落としたのだ。
「人間、自分の事で手一杯なんだよ……いちいち、そんな事に構ってられるか」
「貴様等……」
自分達の思いを切実を訴えていた仲間を惨殺され、この上ない侮辱を受けた。
「皆殺しだ……貴様等全員、皆殺しだぁぁぁぁっ!!!」
敵意や憎悪を超え、魔人達の形相は完全な殺意に染まる。
「テメエ等、何ボサッとしてんだ!?化け物の話に丸め込まれてんじゃねえ!!!」
恫喝され、戦意を忘れかけた兵達は得物を構え直す。
――晴れぬ顔の者……澄まし顔の者……猛る顔の者……。
無惨に首を断たれた魔人の訴えに、兵達はその顔の下で何かを感じたろうか。
人間と魔族……双方が再びの激突を始める。
「さっさと片付けて街へ戻るんだ!トロトロしてたら街は終わりだ!!!」
◇ ◇ ◇
シュラプネルに突入したドラゴンは、宿営所の屋上付近に取り付いた。
その衝撃に宿営所の建物は揺れ、一部が崩れ落ちる。
「だめです、戻って下さい!!!」
このままでは瓦礫の下敷きだ。
危険を感じた住民の一部が、兵の制止も聞かず屋内へと駆け出す。
「落ち着いて下さい!外は危険です!」
「今ここを出ては……おい、待て!待てって……!!!」
彼等を追いかけ、必死に引き止めようと走る兵達。
屋外に出てしまった人々を追い、自分達も外へ出ようとした矢先――
――彼等の目の前が炎で埋め尽くされた。
「……!!!」
追う足を止めた兵達の顔を凄まじい熱気が襲う。
建物を一歩外に出た先が、赤々と燃え盛る炎に染まったのだ。
取り付いた屋上から、ドラゴンがそこへ炎を吐きかけたのだ。
――外へと飛び出した人々は、一人残らずその炎に飲まれた。
中に留まった人々がその光景に震え上がり、悲鳴を上げる。
「外は危険です!皆さん、落ち着いて下さい!!!」
これ以上の犠牲を出すまいと兵達は踵を返し、人々に叫ぶ。
――それに間入れず、地面と宿営所が再び激しく揺れる。
「……!!!」
振り返る兵達の先……そこには、屋上から敷地へ降り立ったドラゴンの姿。
自身が放った猛火の中でも涼しげに、ドラゴンはそこから屋内を覗きこむ。
ドラゴンはその巨体ゆえ建物の中までは入ってこれない。
――だが、それで果たして幸いだろうか。
大きく獰猛な二つの瞳。
そこに映す逃げ惑う虫けら達の姿に、ドラゴンの口元が笑みを浮かべたかに見えた。
◇ ◇ ◇
――間に合え。
林を出たノエルは街の建物の上を飛び移り、シュラプネル宿営所へ向かっていた。
彼の位置からも、丘にそびえる宿営所が煙を立ち上らせているのが分かった。
ギルディアと戦っている間に、状況は目に見えて悪化していた。
◇ ◇ ◇
――喉を低く唸らせ、ドラゴンが激しい炎を吐きかける。
出入り口に一番近かった兵が、その炎にたちまち火達磨と化す。
だが、仲間達にはそれを助ける暇さえない。
「左へ誘導しろ!地下から避難させる!!!」
住民達は奥の突き当たりを左へと案内された。
そこに古びた鉄の扉が現れる。
――それは地下通路へと通じる扉。
長い地下通路を抜けると、宿営所の裏の森へ出られる様になっている。
かなりの年月使われておらず、今は中がどうなっているか分からない。
だが、この状況で人々を安全な場所へ避難させる手段はこれしかない。
「自分達が先導します!ついてきて下さい!!!」
鍵を取ってくる暇さえない。
施錠された扉を勢い良く蹴破り、兵達は後に続くよう人々に促す。
◇ ◇ ◇
――駆けつけたクリストフは、その惨状を目の当たりにする。
まず目に飛び込んできた、火の海と化す宿営所の敷地。
その火の海で既に黒い塊となっている、何人もの人間。
そして、その向こうに見える巨大なドラゴン。
「クリストフさん!!!」
敷地内にいる数人の兵がクリストフに気付き、駆け寄ってくる。
彼等は辛うじて、先ほどのドラゴンの猛火から逃げ延びていた。
「街の人達はどうした?」
「中に避難しています!」
だが、彼等に住民達の安否を訊ねてもそこまでしか分からない。
中の部下達が地下から人々を逃そうとしている事は、誰も知らないからだ。
――クリストフの視線が、その宿営所へと炎を吐きかけるドラゴンに向く。
「調子に乗るなよ、貴様……!!!」
クリストフの両手が剣の柄を強く締め付ける。
憤る彼にも気付かず炎を吐き続けるドラゴン。
クリストフが駆け出そうとした瞬間……突然、ドラゴンの周囲で爆発が起きた。
『……!!!』
何事かと動きを止めるクリストフ。
彼等の傍らを、何か黒い影がドラゴンへと向かっていった。
「おおおおおおおおおおおおっ!!!」
凶暴な雄叫びでそれはドラゴンに飛び掛り、手にした斧を振り下ろす。
ドラゴンは炎を吐くのをやめ、敷地内にけたたましい悲鳴が響き渡る。
容赦なく続け様に振り下ろされる斧……四散するドラゴンの血肉と鱗。
――それはノエルであった。
ドラゴンが身を振り乱し、ノエルは空中へ投げ出される。
だが、彼は斧を持ったまま猫の様に体勢を整え着地した。
そこはちょうど、クリストフ達に背を向ける位置だった。
「クリストフさん……あいつって……」
「ああ……昨日ここへ押し入った奴だ」
クリストフ達は戦意を忘れ、呆然とそれを眺めていた。
昨日の敵が突然自分達に加勢しだした……不可解でも無理はない。
だが、訝しがる彼等の言葉も視線も今のノエルには届いていない。
本来の敵に背を向けたその状況でさえ、彼にはドラゴンしか見えていない。
――クリストフは、その身に負っているおびただしい生傷に気付く。
それは昨日に負った傷では明らかにない。
ノエルの身体の至る所には、乾き切らぬ血の赤が目立っている。
それはつまり、今しがた彼が何かと戦っていた事に他ならない。
――クリストフは駆け寄り、ノエルのすぐ横に立つ。
「……何のつもりだ、貴様」
「見たままだよ」
ノエルは一瞥もくれず言葉を返す。
ドラゴンは奇襲を受けながらも、その動きはさほど鈍っていない。
「頼みのあの剣もないのに、今のあんたに何かできるの?」
「心配には及ばんさ……お前もやはり勘違いしているな?」
「……?」
ノエルは訝しげに細めた横目でクリストフを見る。
クリストフが握る剣は、昨日とは明らかに別物だ。
さほど装飾もない無骨なその剣に、何か秘密があるとも一見思えない。
だと言うのに、それを握るクリストフのその顔は不敵に微笑んでいた。
◇ ◇ ◇
「……これ自体はただの鉄の塊だ」
「えっ?」
ジャックは言われたその言葉が信じられなかった。
――以前、ジャックがクリストフ達の遠征に同行した時である。
彼等の行く先に現れた巨大な蜘蛛の魔物。
クリストフはそれを心象の刃による炎で、たちまち丸焼きにして葬ったのだ。
目を丸くするジャックに、クリストフがその力の本質を話して聞かせたのだ。
「本当だ……本来『心象の刃』とは、剣ではなく技の名だ」
「技?……剣の名前じゃなくて?」
人々に聖剣とも謳われるその剣が、実はただの鉄の塊なのだという。
そして、今しがたの力が剣の物ではなく単なる「技」だというのだ。
「もっとも、俺が勝手に付けた名だがな……この剣でなくとも槍や斧……その気になれば
落ちている木の枝でも、これと同じ事はできる……大事なのはこの手と心だ」
クリストフは両手を開き、ジャックの前に出してみせる。
ジャックは手品の種でも教わっている様な気分になった。
「ただし、コツはそうそう掴めん……ここでそれが出来るのは俺一人だけだ。だからこそ
皆は技ではなく剣の名前だと勘違いしているわけだが……」
苦笑するクリストフ。
ジャックにはやはり信じられない。
「昔、出先で年老いた旅人に教わったんだ……魔物も多い土地だと言うのに、その老人は
何の武器も持たず旅をしていてな。危険だと声をかけると、自分にはこれがあると言って
ただ杖から炎を呼び出して見せた……魔術師でもない普通の老人がだ」
魔術師でもなく魔力も持たぬ老人に、どうしてそんな事ができるのか。
当時のクリストフにも到底信じられぬ事だったと言う。
――だが、その奇跡はやはり魔術を用いた物ではなかった。
老人はかつて剣士として各地を旅していた。
魔術の才覚もその源となる魔力も持たない、全くの凡人だ。
そんな彼は旅の前から使い続けた一本の剣を、自身の半身も同然に扱っていた。
ある時、魔物の大群に遭遇した際、その刃が突然に赤い炎を上げて燃え盛った。
その炎は彼の意思と同化した様に魔物達へと向かい、たちまちに焼き尽くした。
――若かりし頃の彼には、何が起きたか理解できなかった。
そこには魔術師でもない自分だけ。
手にしている物は、寂れた街の鍛冶屋で打たれた安物の長剣。
それにどうして、あれだけの奇跡が起きたと言うのだろうか。
すぐにはそれを理解出来ぬ彼であったが、その後の旅路でも二度三度起こるその奇跡を
ちっぽけな凡人の自分と、その鉄の塊が起こしていると次第に理解していったという。
――ある時は敵を焼く武器として、ある時は暗闇を照らす松明として。
危険極まりない単身での旅で、それは何よりも頼れる物だったと言う。
次第にその奇跡を、彼は自分の意思で呼び起こせる様になり、やがてそれが他の誰にも
真似出来ず、誰にも知られていない唯一無二の物である事も明らかになっていった。
――こうして、老人は後に「心象の刃」と呼ばれるそれを開眼したと言う。
「是非自分もと頼み込み……それから一週間ほど指南を受けた」
「……それで?」
「ダメだった。だが、その老人と別れた後も修行を重ね……まあ、四年ほど掛かったか。
物にしてみて分かったが、剣や何かしら武器と言うのも楽器や絵筆と同じだ……使う者の
感情や性格を形にする事ができる……その術を誰も知らず、信じないだけだ」
「は、はあ……」
「信じられんと言う顔だな……試しにお前の剣を貸してみろ」
ジャックは自分の腰に差した剣をクリストフに手渡す。
クリストフはそれを鞘から引き抜くと、それを眺める。
「…………」
「…………」
「……剣はもっとよく磨け」
「あ、はい……すみません」
「いいか、よく見ていろ?」
念を押すクリストフ。
すると、彼は借り物であるその剣からも、同じ様に蒼白い炎を呼び出して見せた。
「……!!!」
ジャックは信じるしかなかった。
彼が握っているのは、間違いなく自分が普段使っているただの剣だ。
――その話は間違いなく本当だ。
「どうだ……教えてやっても良いぞ?」
「……!!!」
「物にし戦場で手柄を立てれば、お前も若くして出世できるかもしれんぞ?」
クリストフは将来ある若者をからかう様に、クスリと笑う。
ジャックは有無を言わずそれに頷いた。
「教えられる事は全て教えてやる……後は自分で物にしろ」
◇ ◇ ◇
――そうして、早くも一年近い。
地道に修行を始めたジャックだが、剣は未だ彼の呼びかけに無言のままである。
師が四年も掛かった物を、弟子がその場で出来るはずもない。
――肝心なのは持つ者の心と、それを柄に伝える手。
クリストフからの指南が思い出される。
心を静めれば良いのではなく、かと言って荒ぶるでもない。
手足の如く血を通わせてゆくかの様な感覚が大切なのだと。
――言わば、身の一部にするが如く。
「……!!!」
だが彼の意識は、襲ってきた魔物の爪に否応なく現実へ引き戻される。
実際、慣れぬ単身での戦いで未だ会得出来ぬ技を使うなど無謀で然り。
――勝機など生むはずもない。
やはり堅実に攻めてゆくしかない。
辛うじてだが、ジャックの動きと思考は徐々に戦いに慣れ始める。
――勢い任せでは殺られる。
魔物の身体は彼よりも遥かに大きく、その太さも相当だ。
半端な事では反撃に遭い、逆に仕留められるのがオチだ。
――攻撃を誘い、反撃で徐々に削り落とす。
ジャックは戦術を導き出す。
戦いは少しずつ、彼の戦士としての思考を鍛え始めていた。
クリストフに従い漫然と動いていただけでは得られぬ物だ。
――魔物が動く。
ジャックもまた動く……だが、それに怯む事はない。
避けると共に剣を振るい、刃が魔物の肉を切り裂く。
思わぬ痛みに魔物は苦悶する。
――出来た。
ジャックは怯えも半ばに、少しの安堵と勝機を見出す。
来てみろと心中で次を誘うや、再び魔物が彼に向かう。
次第に魔物の身体に傷が目立ち出し、その動きを鈍らせ始めた。
――形勢はジャックに傾きつつある。
「……!!!」
だが、彼は勝機を見誤った。
慢心か焦りか……彼は欲をかき過ぎてしまった。
立て続けに彼が剣を振るう中、身を裂かれながらも魔物が反撃に出てきた。
――その腕がジャックの頭部を狙う。
ジャックはちょうど剣を振りかぶった所であった。
その腕を受ければ、彼の頭は身体が切り放される。
咄嗟にジャックはその間へ刃を滑り込ませる……滑り込ませたその時――
――突然、白い光が生じた。
◇ ◇ ◇
「……!!!」
「驚いたか?」
その不敵な笑みの正体。
クリストフの剣に宿った蒼い炎に、ノエルは驚きを隠せない。
彼の炎は昨晩に自分が折った剣でしか操れない物と思っていたからだ。
だが、昨日の物とは違うそれにも炎は同じ様に宿り、燃え盛っている。
「……行くぞ」
クリストフが剣を振るうや、炎が独りでに宙を泳ぎ出す。
そして、ドラゴン全身をたちまち飲み込んで燃え上がる。
――自分が炎を浴びせかけた虫けらと同じに炎に焼かれるドラゴン。
「すげえな、やっぱりクリストフさんは」
「ドラゴンでさえこれとは……恐ろしい」
自分達の出る幕はない……部下の兵達はもはや傍観者だ。
彼等の言葉には、クリストフの味方で良かった安堵と畏怖を垣間見せる。
◇ ◇ ◇
「……!!?」
それはジャックが手に握った刃からであった。
それに接触した魔物の腕は弾き返され……いや、違った。
魔物の腕はそれと接触するや焼き切れ、切断されたのだ。
――絶叫し、のたうつ魔物。
ジャックにも何が起きたかは分からない……だが、迷う暇などない。
彼は無我夢中で、光を帯びたその剣の刃を魔物の脳天に叩き込んだ。
――ジャックに鮮血を浴びせかけ、魔物はとうとう崩れ落ちた。
「…………」
ジャックは手にした剣の輝きを見つめる。
それは月明かりに輝いているのではない。
紛れもなく身近な何かが作り出した輝き。
――それこそが心象の刃であった。
クリストフとは異なり、ジャックは白いその光を刃の上に呼び出した。
彼の想像とは違っていた……それは何かを誤ったわけでは決してない。
――その形はその者にしか作れず、同じ物は二つとしてないのだ。
「…………」
ジャックの興奮は冷めやらず、全てに実感が湧かなかった。
魔物は倒れた地面の上で徐々に力を失いながら、やがて動かなくなる。
ジャックの握った剣からもまた、気付けば先ほどの光は失われていた。
――行かなきゃ。
クリストフに剣を届ねば。
ジャックは戦いの慌しさに埋もれてしまった、肝心な事を思い出す。
一度地面に置いたクリストフの剣を拾おうと手を伸ばす。
――だが、不意の殺気がそれを止めさせる。
振り返る背後……そこに光る四つの赤い瞳がジャックを凝視していた。
魔物だ……その数は二匹、いずれもやはりジャックより遥かに大柄だ。
「……来てみろよ、化け物」
立ち尽くし、吐き出す言葉。
今のジャックに先ほどまでの怯えはない。
二匹の吠える声が、冷たい夜の大気を貫いて響き渡る。
◇ ◇ ◇
放たれた蒼い炎は、ドラゴンが崩れ落ちるまで燃え続けた。
横たわるドラゴンの全身は焼け焦げ、黒ずんだ巨大な物体と化していた。
「お前達は中の様子を見に行け……街の人々が無事かを確認するんだ」
「……は、はい」
兵達は命じられ、中の様子を見に建物の中へと走っていった。
彼等の返事にどことなく戸惑いがあった事に、クリストフは気付いていた。
――その原因であるノエルもだ。
邪魔者を一人残らず追いやった所で、クリストフはノエルに向き直す。
ノエルは既にその視線をクリストフに向けていた。
「……まさか、お前に手伝われるとは思わなかった」
「手伝った様に見えるのか……都合の良い目玉だな」
少なからず礼を含むその言葉に、ノエルは皮肉で返す。
「どうやら向こうでもカタがついた様だ」
「……!」
二人は丘の下に広がる街を見やる。
その姿は遠く小さいが、前線の部隊が街の応援に駆けつけて来た様であった。
それは前線での戦いが、シュラプネル側の勝利に終わった事を意味していた。
あれだけの数と勢いならば、街の魔物もそう掛からず全滅だろう。
「てこずったが……なんとか守り抜けた」
「…………」
ノエルもまた半壊したフォールンの街を見つめる。
所々に火と煙が見え、遠目にも街が全くの無事で済んだとは言えない。
ギルディアが言った通り、自分の復讐がその引き金となったのだと彼は――
「……いつまでよそ見をしている?」
「……!!!」
一難去った束の間の余韻を、一振りの刃が断ち切る。
ノエルは飛び退き、それを振るってきたクリストフに向き直す。
「お互い、敵がまだ目の前に残っているだろうに……ボウッとしおって」
見透かした様に皮肉げなクリストフ。
「何か思う所でもあって尻込みか?なめるなよ、貴様?」
――敵ながら、クリストフはノエルの心を悟った。
ギルディアには理解できなかった彼の矛盾。
人々の安全を奪おうとしながらも、その危険を望まぬ矛盾。
関係ない者達を巻き込み、街を半壊させてしまった罪悪感。
それにより微かに生じた、揺るがぬはずの復讐心の揺らぎ。
――皮肉にも、ノエルはそれを決して相容れぬ相手に理解されたのであった。
「……ははは」
ノエルは小さく笑った。
どこか自分を嘲る様な、何かを誤魔化す様な笑みにも見えた。
「ちょっと気が抜けただけさ、後はあんただから」
「そうか、それは心外だったな……すまなかった」
「ははははは……」
「ふっふっふ……」
気味の悪い笑みを浮かべる二人。
見抜かれながらも、ノエルが素直にそれを認める事は決してない。
クリストフもまた、それを言葉にして説き明かすなど決してない。
決して相容れぬからこそ口にはしない……という敵だからこその仁義である。
――次はお前だ。
互いから笑みが消えるや、各々の胸中で爆ぜるその念。
刃は燃え、野獣は吠える。
――そう、彼等に決着など着いていない。
変わった事は、邪魔者がいなくなったというだけ。
気兼ねなく殺し合える様になっただけの事である。
◇ ◇ ◇
――叩き折られたジャックの剣が宙を舞った。
壁に激突し倒れるジャック。
それを見下ろす二匹の魔物。
一匹をやっと倒せたジャックが、二匹を相手に一分と持つはずもなかった。
二匹が迫る……だが、今のジャックにはもう恐怖を感じる事すらできない。
――突然、その二匹から悲鳴を上げた。
彼等の身体を背後からいくつもの刃が貫いたためであった。
崩れ落ちる魔物達……その背後には立っていたのはシュラプネルの兵達であった。
「おい、大丈夫か!?……おい!!!」
内の一人がジャックに耳元で呼びかけ、その身を揺さぶる。
だが、ジャックは目を開かない。
鼻と口から血を流しグッタリしたままだ。
「息はあるが、こりゃ傷がちぃと深そうだ!」
「今は医者も上に避難しちまってるだろうし……参ったな」
だがその時、彼等は住民などいないはずの街に人影を見つけた。
それはすぐ近くの民家の玄関から、彼等をずっと盗み見ていた。
「おい、あんた!……そこのあんた!!!」
兵が怒鳴りながら駆け寄ると、その人影は少しすくみ上がった様であった。
七十代ほどの男性で、他に身寄りもないのか恐らく避難し損ねたのだろう。
「上に避難しろってあれほど言ったろうが!死にたいのか!?」
「あぁ……すみません」
「こいつを頼む!まだ街には魔族がいる!ジッと隠れてろ!?」
「は、はぁ……」
兵達の気迫に押され、老人はオロオロしながらジャックを受け取る。
――遠くどこかで、新たな魔物の雄叫びが聞こえて来る。
「いくぞ!」
「頼むぜ、じいさん!」
兵達はその声のする方へ風の様に走り去っていった。
――その道の片隅に転がるクリストフの剣。
ジャックに意識があったなら、それを届けて欲しいと必死に懇願したはずだ。
その刃は主の手に帰る事も叶わず、道の上で砂埃にまみれてゆくのであった。
◇ ◇ ◇
――八年前、クリストフは仲間達とある丘の上にいた。
そこからは、トアフォスタの村が炎を上げ燃えてゆく様が見えた。
炎に焼かれ、多くの命が黒煙と化し空へと昇ってゆく所であった。
――聞こえてくるすすり泣く声。
それはクリストフ達の傍らにいる少女からであった。
銀髪を結いお下げにしている十代半ばほどの少女だ。
「……セシル、しっかりおし」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
年老いた老婆が伸ばした手を、彼女は乱暴に振り払う。
垣間見たその顔は涙に濡れ、深い悲しみに歪んでいた。
野犬にでも襲われたのか、その右腕からは赤い血を滲ませていた。
「何で……?」
少女が声を漏らし、顔を上げる。
本来なら花の様に可憐であろうその顔は、激しい悲しみと怒りに狂っていた。
「何でこんな事をするの!?あの人達が何をしたの!?何で殺されなきゃいけないの!?
まだ小さい子供やお年寄りだっていたのに……何でなの!!?」
セシルと呼ばれた少女は顔を上げ、クリストフ達に訴えかける。
だが、それをまっすぐ見つめ返せる者などそこにはいなかった。
「お祖母様も何をしていたの!?白夜公なんて呼ばれているくせに、こんな事にならない
ために何かできなかったの!?こんな物を見せるために私をここまで連れて来たの!?」
「セシル……酷い事だけれど、これは仕方ない事なんだ」
「人殺し……あなた達は正義でも何でもない、ただの人殺しよぉぉぉぉ!!!」
感情のまま、怒りを撒き散らすセシル。
それは到底治まり様のない物であった。
――同じ人間を虐殺する光景など見せられては。
「!……ジェフリー」
兵の一人が誰かの名を呼んだ。
それはクリストフ達に遅れ、一人の青年が丘へと上がってきた青年の名だ。
ジェフリーと呼ばれたその成年もまた、彼等と同じ様に鎧を着込んでいた。
「どこへ行っていた?」
「……いや、野暮用だ」
クリストフ達が燃え上がる村を後にした時、ジェフリーの姿はそこになかった。
彼だけが遅れて丘へと上がってきたであった。
「…………」
ジェフリーは振り返り、仲間達と同じ様にそこから燃え上がる村を見る。
クリストフはジェフリーの隣に立ち、共にそれを見る。
「……俺達、良い様に踊らされただけじゃないのか?」
「言うな。責任のなすり合いなどしても、俺達がこうしたのは事実だ」
「何が悪かったかを口にする勇気がないだけじゃないのか、お前は?」
「…………」
「それで割り切れるのか?お前にも吐き出したい言葉があるんじゃないのか?こんな事を
これからも繰り返すのか?これがシュラプネルの在り方なのか……?」
「……よすんだ、クリストフ」
ジェフリーは、クリストフにそれ以上の問いかけを許さなかった。
「俺達は取り返しのつかない事をした……本意か不本意かは関係ない……あそこで燃える
村は俺達の手でそうしたんだ……俺達は何の罪もない同じ人間を殺した……」
重々しく断続的に言葉を紡ぐジェフリー。
決してクリストフの顔を見ようとしないそこに、押し殺した感情を滲ませる。
「俺達はきっとこの先もこんな理不尽を強いられる……もしかしたらこれより悲惨な事が
待ち受けているかも知れない……俺達が望まなくともだ」
見据えられた破滅的な未来。
口にするジェフリーの声と身体は震えていた。
――淡々と口に出来るはずもなかった。
「だが、俺はいずれ親父からこのシュラプネルを継がなければならない。こんな理不尽が
繰り返される時、俺はその中心に立たねばならない……」
「そんな――」
――そんな事をお前が背負う必要なんてあるのか?
吐き出したい衝動をクリストフは咄嗟に抑えた。
自分の知る限り、このジェフリーという男は極めて誠実で善良な人間だ。
そんな男が父親のために、望みもしない悲惨な将来を歩もうとしている。
――止めたかった……無理だとしても、友情を抱く相手だからこそ。
だが、クリストフにそれは出来なかった。
馬鹿げていても、負わなければならぬ物が時として人にはある。
クリストフも……ジェフリー本人もそれを知ってしまっているからだ。
そして、無責任にそれをかなぐり捨てる事を彼等は美徳だと思えない。
「クリストフ……出来るなら俺はお前についてきて欲しい……お前だけじゃない、ここに
いるみんなもだ……俺には共にたくさんの罪を背負ってくれる人が必要だ」
「…………」
「……頼む」
ジェフリーの切実な懇願に、クリストフはその場で答える事はできなかった。
押し黙り、隣に佇む事しかできなかった。
――彼方のトアフォスタは、誰から救われる事もなく無情に燃え続ける。
生きる限り重ねてゆく年月の下、彼等はその景色さえ埋もれさせてゆく。
だが、どれだけ埋もれようと、彼等のその記憶が輪郭を失う事などない。
――流れた血と燃える炎……その色もまた忘却に色褪せる事がない。
◇ ◇ ◇
――俺達は必ずしも正義じゃない……いや、正義などではない。
結局、ジェフリーの願いを受け入れられず去っていた者は多くいた。
だが、俺は留まった……共にシュラプネルを守り続ける事を選んだ。
人殺しめ、故郷の仇めと蔑まれようと……俺達は前に進むしかない。
――例え……過去の亡霊を前にしてもだ。
憎まれ復讐されようと当然の報いだ。
だが、俺達は悪でありながら、滅ぶ事は許されない。
――俺達は人々にとっての正義として、存在し続けねばならない。
横たわる巨大なドラゴンの前。
刃と手甲がぶつかり合い、甲高い音を鳴らせる。
――火花が散ると共に、二人が互いに飛び退く。
「……みんな死んだ……父さんも母さんも、友達も……みんな死んだ」
息を切らしながら、ノエルが口を開く。
昨晩の戦いに続き、ギルディアを下した彼の身体は限界に差し掛かっていた。
「……マルクはよそ者だけど良い人で、アイネの姉ちゃんと結婚するはずだった。友達の
ダグは本ばっかり読んでるから、俺が外に連れ出したりしてた。エドガーは釣りが好きで
あいつの父さんから一緒にやり方を教わったりした……」
「…………」
「グロリアおばあちゃんは病気でもう長くなくて、息子さんが最期を看取ろうと仕事まで
辞めて実家に帰ってきてた……フィリップのじいさんは無口で静かな人だったけど、俺や
みんなによくお菓子をくれたし、飼ってた馬やロバに乗せてくれたりもした」
――次々に挙がる亡き人々の名前。
クリストフには、それらが誰の名前だったかさえ分からない。
「もうみんなはいない、帰る家もない……あれからの八年、お前達を殺す事ばかり考えて
乞食みたいになりながら生きてきた……こんな人生があってたまるか」
ノエルは腰の鉄鎖を掴むと、顔のすぐ前でそれを両手で横に張らせる。
「……殺してやる」
そして、その奥で狂気に血走る両目を見開く。
「来い……俺を殺してみろ、亡霊」
ノエルが吠える。
地を蹴って飛び、クリストフを目掛け鉄鎖を振りかぶる。
――清き正義はそこにない。
奪われた者達の復讐を叫び、血に狂い荒ぶる者。
背負う物のため、それすら打ち砕かんとする者。
死闘の果てに得る物とは、血みどろの生か無惨な死のいずれか。
――栄光など在りはしない、ただどこまでも悲惨な闘争である。
◇ ◇ ◇
――戦いはシュラプネルの勝利に終わった。
南西での戦いで半数以上の仲間を失いながらも、兵達はフォールンへと舞い戻った。
そこで目にした半壊する街に彼等は怒り狂い、街の兵達と共に魔物達を全滅させた。
「まだ宿営所にドラゴンがいる!急ぐぞ!」
そして一同に、最後の敵が待ち受けているであろう丘の宿営所へ向かい出す。
◇ ◇ ◇
狭く長い地下通路を抜け、住民達は兵に先導され夜の森の中へと出た。
長い年月にも崩落する事なく、通路は無事に彼等を森へと抜けさせた。
通路は大人二人分ほどの幅しかないため、外へ出た住民達は泥まみれであった。
――彼等にはそこから、後にしてきた宿営所を遠く見つめる。
あそこでは未だドラゴンが暴れているのか。
宿営所や自分達の住まいである街はどうなってしまうのか。
人々は寒空の中、いつ終わりが来るとも分からず、フォールンの行く末を見守る。
◇ ◇ ◇
「……!!!」
突然……ノエルが動きを鈍らせる。
肉体の上げる悲鳴が、ついに押し殺し切れぬほどになったのだ。
――それは葬ってきた者達の怨念だったかもしれない。
クリストフはその一瞬を決して見逃さない。
けしかけた炎が事もなくノエルを捕らえる。
のたうつノエル……その心臓を貫かんとクリストフの刃が閃く。
――捉えた……かに見えた。
その一突きは、彼の左脇すぐ下を掠めて外れた。
ノエルは炎に飲まれながらも、辛うじて刃から心臓を逃した。
――ノエルの右腕が伸びる。
「……!!?」
肩を掴まれ、クリストフは瞠目する。
ノエルは彼の身体に絡まり密着すると……その首筋に噛み付いた。
「……!!!」
苦悶するその一瞬の内に、歯はクリストフの首に深々と食い込んでゆく。
――噴く血煙に宙が染まる。
首を噛み切られ、クリストフは崩れ落ちる。
ノエルの口から吐き出された赤い塊が、石畳の上を跳ねる。
炎に飲まれながらも、彼は獣の如くその喉を噛み千切った。
――二人の戦いもまた終わりを告げた。
「……言い残す事はあるか?」
死の宣告も同然に、ノエルはそう訊ねる。
満身創痍になりながらも、その瞳には変わらず冷酷な憎悪が宿る。
血を流して止まぬ首を押さえながら、クリストフは見上げるノエルへ言葉を紡ぐ。
「貴様に……下げる頭など……なィッ……」
「…………」
辛うじて吐き出すその言葉さえ、懺悔の念は微塵もない。
彼は最後まで、自分を憎む者にとって許しがたい存在である事を貫く。
――その時、ノエルの背後で何かが唸り声を轟かせる。
ドラゴン……それはクリストフの炎に焼け死んだと思われたドラゴンだった。
息を吹き返した……いや、二人を欺きこの機会を伺っていたのかも知れない。
その巨大な口を開き、二人へと飛び掛る。
「そら……餌だぞ!!!」
ノエルはクリストフの身体を掴み――
――視界を埋め尽くさんと迫るその大口へ、彼を放り投げた。
「……うあああああああああああああっ!!!」
凄惨な悲鳴もろともクリストフを飲み込み、ドラゴンの大口が閉じる。
上に飛び退いたノエルのすぐ下を、ドラゴンの巨大な頭が滑ってゆく。
――ドラゴンのその瞳は、最後に自分の眉間へと迫る靴の裏を映した。
◇ ◇ ◇
生き残った兵達が宿営所へ駆けつけた時、そこに動く物は一つもなかった。
転がる焼け焦げたいくつもの死体に、頭部の潰れた巨大なドラゴンの死骸。
敵は倒れ、戦いは終わった様だ……だが、そこには味方の姿がない。
「クリストフ!……誰かいないのか!!!」
兵達は辺りを見回す。
だが、そこには一向に彼等以外の姿はなかった。
「中だ、中を探すぞ!」
兵達は宿営所の建物の中へと駆け込んでいった。
◇ ◇ ◇
フォールンの喧騒を背に、ノエルは森の闇を行っていた。
彼は朝を待つ事なく、明かり一つない闇の中を次の戦場へと旅出つ。
草木に血の染みを残し、重い身体を引き摺り、足を石に取られ転びながら。
――まだだ……まだ、くらばらない。
遠く去ってゆくその軌跡に、荒い吐息に乗せ残すその情念。
視界に広がる夜の暗幕……その先に浮かぶ目には見えぬ幻影を、彼の瞳は睨む。
――ここと変わらぬであろう、血みどろの戦場……その幻影である。
◇ ◇ ◇
――六日後……ジャックは意識を取り戻した。
六日後の昼に目覚めた彼は、見知らぬ部屋のベッドであった。
部屋は明るい……今はどうやら昼らしく、窓の外には青空と雲が浮かんでいる。
「……!!!」
だが突然、彼は弾かれた様にベッドから上体を起こす。
――敵はどこだ。
ジャックは思い出した。
自分は戦場で魔物達に打ちのめされ、意識を失った。
顔や身体に手を当て、まだ自分が生きている事に少し安堵する。
――だが、それで済む話ではない。
肝心な今すぐ知りたい事が山ほどある。
戦いはどうなった……どうして自分はここにいるのか。
みんなはどうなった……クリストフさんはどうなった。
――だが、部屋には他に誰もいない。
痛む身体に鞭を打ち、ジャックは彼はベッドを降りて部屋を出る。
すると、廊下に出たすぐ先で人と鉢合わせた。
「おっと、どこに行くんだい……目が覚めたのか」
痩せた三十代ほどの男だった。
細い両手がジャックの両肩を掴み、それ以上の行く手を阻む。
「……どこですか、ここは」
「街の医院だよ……魔物と戦って気を失った君を、街の人が手当てしてくれてね。騒ぎが
治まった所で、君をここへ移したんだ……元気そうで良かった」
医院……男はつまり、ここの医者らしい。
ここへ運び込まれた後の面倒も、どうやら彼がを看てくれた様である。
「……あれからどうなったんですか?」
「終わったよ……君達シュラプネルが頑張ってくれたお陰で、この街は何とか守られた。
とは言っても、街のあちこちが壊され、怪我人や死人も多く出ている……方々が後始末に
追われていて、どこも人間も仕事が山積みさ……私もね」
「…………」
落ち着いた口調で説明されても、ジャックは実感を得る事ができなかった。
外の晴れ渡る街の景色と、最後に見たあの戦いの夜がどうにも繋がらない。
このまま大人しくベッドで安静にもしていられるはずなかった。
◇ ◇ ◇
――フォールンの街中。
街の空は青く、陽射しも強い。
ジャックは医者に頼み込み、付き添ってもらう形で外出を許可された。
戦いの爪跡を残しながらも、街には以前の様に人々が行き交っている。
やっぱり終わったんだ……という実感が徐々にジャックに湧いてゆく。
――彼はあの夜に魔物達と戦った場所へとやってきた。
道の傍に見つけたそれをジャックは拾い上げる。
クリストフに届けるはずだったその剣は、道の片隅で砂埃にまみれ続けていた。
「俺、これをクリストフさんに届ける所だったんです……良いですか?」
「いいよ、一緒に行こう」
ついでだからね、と医者は承諾する。
クリストフの居場所を知らないジャックは、ひとまず宿営所の方へと歩き出す。
◇ ◇ ◇
二人は大通りに出るや、無惨な瓦礫と化した建物を目にした。
シュラプネルの兵達が街の人々の協力を得て、その撤去に追われている所であった。
「兵隊さん達も大忙しだ……だが、君はまだ安静にしていなければいかんぞ?」
「……はい」
「おい、ジャックッ!!!」
すぐ前を通りがかった所で、作業していた兵の一人がジャックに気付く。
それはジャックが世話になっている先輩の一人である。
「お前、生きてたのか……どこに行っちまったのかと思ったぞ」
「すみません……今、この人の所でお世話になっているんです」
「彼の主治医です。仕事への復帰にはもうしばらく掛かります」
「そうか……まあ、無理はするな。ゆっくり休め?」
「はい……ところでクリストフさんはどこですか?」
「…………」
「……あの」
ジャックは訝しがる。
先輩は彼がそう問いかけるや、どこか押し黙る様な素振りだ。
「俺、クリストフさんに頼まれて鍛冶屋からこの剣を――」
「……死んだよ」
◇ ◇ ◇
――クリストフが死んだ。
残酷にも、その事実がとうとうジャックに告げられた。
自分が連れて帰る……そう医者を説得し、先輩は彼を街外れの墓地へ案内した。
――そこには紛れもないクリストフの墓。
「…………」
ジャックは立ち尽くす。
真新しい石の墓標には、彼等の名が刻まれている。
それが受け入れがたいその事実を否定させてはくれない。
「見つけたのはドラゴンの口の中で……もう見る影もなかった」
語られるクリストフの無惨な最期。
先輩は事実をあえて包み隠さない。
言わぬも聞かぬも、死と隣合わせの世界に身を置く者として甘えだからだ。
「クリストフが死んで、今の宿営所は大混乱だ……上の方の連中もかなりが死んじまって
下を指揮する奴はほとんど残っていない……他の支部に応援を頼んでいる所だ」
司令塔と兵の多くを失った第52番支部は、事実上の壊滅に等しかった。
生き残った兵達は、今後の自分達がシュラプネルとしてどうすればいいのか、と不安と
混乱に苛まれながら復興に勤しみ続けているのであった。
「……あいつはどうなったんですか?」
「……あいつ?」
「あの黒い奴です!あの前の晩に宿営所へ押し入ってきた黒い奴です!」
「そいつの事は俺には分からん……が、宿営所の護りに就いていた連中が、そいつらしき
黒い奴がクリストフと共にドラゴンと戦っていたと話していた」
「!……あいつが?」
「話した奴等はドラゴンが倒れた後、クリストフに中の様子を見に行けと言われ、その後
どうなったかは分からないそうだ……だが、死体が見つかっていないという事はそいつは
生きて今もどこかにいるのかもしれん」
――ノエルは死んでいない?
だとすれば、奴はどこにいるのか。
ジャックはクリストフからあの夜に聞いた事を思い出す。
あの時……シュラプネルによる八年前のトアフォスタ全滅の真相を話した後。
クリストフは、ノエルが最終的にどこを目指しているかをジャックに話した。
――それによれば……奴の最後の狙いは本部のジェフリー団長。
「あれから姿を見せないらしいが……また、いつ現れるとも分からんな」
「……奴はもうこの街には現れませんよ」
「……ジャック?」
死体が発見されておらず、六日経っても姿を見せない……それはつまり。
――奴はもうこのフォールンにいない。
「ここでの決着はついたって事か……あの野郎」
「なんだ?いきなりどうした……お、おい!?」
先輩は突然どこかへ走り出したジャックに声を上げる。
六日も意識を失っていたとは思えぬ速さで、彼は墓地を走り去ってゆく。
――その片手に、今や形見となったクリストフの剣を握り。
奴が北へ向かったんだ。
ノエルは恐らく、六日前の時点でもうこのフォールンにはいない。
あれから六日も経ち、ノエルはもうかなりの距離を行ったはずだ。
もしかしたら……もうどこかの支部がを襲っているかもしれない。
「どこに行くんだ!戻って来い!俺が連れて帰るって医者と約束してるんだぞ!?」
ジャックは聞こえて来る先輩の声にも立ち止まらず走り続ける。
派手に転ぶ様な音がしようと、彼は決してそれに振り返らない。
――ノエルとジャック。
彼等はそれぞれにフォールンを発ち、それぞれに長い旅路へと着いた。
ノエルはシュラプネル、そして団長ジェフリーへの復讐を果たすため。
ジャックは誇り高きシュラプネルの兵として、それを討ち果たすため。
――それぞれの道程に、彼等はいくつもの物語を築いてゆくのである。
ED : Shot In The Dark / Children Of Bodom
−あとがき−
えー、これにて小説の方は一段落です。
この第5話までで、主人公が最初の戦いを終えるまでの過程を描きました。
ちょっとしたライトノベル一冊分くらいの量にはなったでしょうかwww
ここまで長かった……。
毎日仕事から帰ってきてはコツコツ書いたり書かなかったり。
コミティアまで残り1ヶ月も切ったのに、ネームすらやらず小説ばっかりwww。
小説の方が半端なままでは集中できなそうなので、無理してここまで書きました。
今回も中二病全開ですが、浅倉の情熱がこもっております……ファンタジー万歳。
さあ、いよいよコミティアの原稿だ!さっさと始めないとまた地獄だぞ、俺!
(補足)
各話ごとに、イメージソングとしてお気に入りのメタルナンバーを挙げました。
大体がデスヴォイス全開のエクストリーム・メタルですが、よろしければどうぞ♪